王民王民 羊 肉 館
東京は渋谷のド真ん中。そこには生きる事の原点がある。
 何年も前からよく通る路地にあるのです。ここは一体何?と心惹かれつつ入る勇気が出ない。それほど異彩を放っております。胡散臭さは筋金入り。本日、同伴の同好の志を得るに長年の念願であるこの店に潜入を果たしました。というのも、店を覗こうかと思った矢先に2組もの客〈一組はサラリーマン2人、もう一組は学生の3人連れ)が相次いで入店するのを目撃し、勢いで3組目の客となったのであります。
 1階はカウンターのみ、2階がテーブル席のような風情にて、思わず2階に駈け上がりました。ちなみに当方は女性3人であります。大きな丸テーブルが二つ置かれております。その形容のしがたいフォルムに惹かれるようにして気がついたら既に座っておりました。一歩先に入った学生組と合い席です。丸テーブルの中央には異様にに大きい半円形の鉄ナベ〈ジンギスカン鍋に近いデザイン〉があります。これを使わん手はないだろうとお品書きを見れば、ありました!〈羊焼き肉)他のメニューは極めて普通の中華。取り敢えずそれとどきどきしながら羊焼き肉!これだけを試食してやばければ即退散しようという心つもりです。しかし、ここのおばちゃんが究極の達人で奥から大声で
 「注文が決まったら言ってくださいね!」
 「あの、焼き餃子と水餃子、それと焼き肉一人前・・・。」
 「あのね、焼き肉3人前からなの。どうする!」
 「じゃ、3人前・・・。」
 この間髪をいれない問答が達人であります。
 「ここの鉄板に火をつけたからね、上の方しか熱くならないからね。」

実はここで恐るべき事態が発生したのであります。火をつけるや否や鉄板の隙間から小さなくもが2匹逃れ出て来たのです(ちょい脂汗!)。しかしそんなことで驚いている場合ではありません、小さなゴマのような虫、触角を動かしております、例のあれのベィビィ虫が何匹が出現。さり気にテッシュで掴み取るわたくしでありました。前に座っている学生3人組は何をトチ狂ったのか、餃子2人前、焼き飯、かた焼きそばを次々と追加し、おばちゃんにやたらと愛想よく話しかけられております。命知らずです。そう言えば隣のテーブルに座っているサラリーマンの2人組にも、かのおばちゃんは焼き肉の焼き方を懇切丁寧に指導しております。我々に関しては全く無視! ノーマーク状態です。分かった、あのおばちゃんは男好きなのだ。あっさり結論が出たところで、ついに焼き肉の御登場。もやしとニラとねぎ数切れ。勿論お肉があります、一握りほど・・・。これで3人前です。
 鉄板のカーブが急なため〈手前は50度ほどの急斜面です〉、中ほどから下に置くと土砂崩れを起こすので焼き方にはかなりの技術が必要です。焼く量にも細心の注意を払わねばなりません、酒なんぞ飲んでいたらこの焼き肉は焼けません。正しい箸の持ち方も必須条件です。ポン酢のような怪しいタレをつけて食するのであります。一人前850円×3で、しめて2550円也。食べながら、この鉄板の下には逃げられないくらい成長したくもが右往左往している図を描いていたのです。ああ、切ない。やりきれない。
 勘定払う段になっていきなりタイムスリップ。なんと五つ玉の算盤が出た。しかもおつりはおばちゃんの財布から。そそくさと店を出ると、大きなため息が出ました。でも、又来よう。

    ここには生きる事の原点がある。

そう心に誓ったのであります。でも、あまりの神経と労力を使い果たしたため、私達はこの料理店に入った時より更に空腹になっていたのでした。

01/06/19